2017年05月25日

アール・イレギュリエ

「美術手帖」の2017年2月号で、「アウトサイダー・アート」について特集されていた。

「アウトサイダー・アート」とは、フランス語の「アール・ブリュット」を英訳したことば。
フランスの美術家ジャン・デュビュッフェが、1945年に刑務所や精神病院を訪れ、受刑者や精神病患者によって描かれたアートを「アール・ブリュット」と呼んだのが事の始まり。
それ以前から、精神疾患の人たちが描く絵に注目することはなされていたが、そうして生まれた作品を芸術として鑑賞することが広まっていく。
1972年に英訳された「アウトサイダー・アート」ということばには、もっと広義の意味が加わり、正当な美術教育を受けていない人が創り出すアート全般を指すようになる。
ただ、日本では「アウトサイダー・アート」といえばほぼ障害者アートのことを指すようで、上記のような欧米の捉え方とはイメージが異なるようだ。福祉的な観点から、障害者の関係者が障害者アートを広め、障害者の社会的地位の向上を目指したことが影響しているらしい。
近年では、アール・ブリュットとナイーブ・アートとプリミティビスムを包括して「アール・イレギュリエ」という呼び名が使われているとのことで……
ちなみに、「ナイーブ・アート」は正規の美術教育を受けていない人の芸術、「プリミティビスム」は非西洋文明や先史時代の人々の文化などを採り入れる様式。

背景や難しい概念のことについてはこれぐらいにしておこう。
そんなことは抜きにして、何の枷もなく思い切り自由に描かれたアウトサイダー・アートは、何もかもが突き抜けていて圧倒される。フリーダムさ加減や偏執的な表現は、興味深いし、観ていて楽しい。
破天荒な色使いや緻密な描き込み。時に、ディープでグロテスクなテーマだったり。
それは、制作者にとっては、自分の世界そのもの、自己そのものを表現したに過ぎない。それだけに、純粋さが伝わってくる。
世間的に知られた人を例に挙げると、山下清とか、ヘンリー・ダーガー辺りがわかりやすいだろうか。

現代のアーティストたちが、マイベスト・アウトサイダー・アートを発表しているコーナーがあるのだが、これがバラエティに富んでいて秀逸。
「シュヴァルの理想宮」、原爆の絵、ネットに溢れるクソコラ、いろんな駅の切符のパンチ屑コレクション(林丈二)など。
ちなみに、「シュヴァルの理想宮」とは、フランスの郵便配達夫フェルディナン・シュヴァルが、ある日躓いた石にインスパイアされて、拾った石を積み上げ33年を費やして作った建築物。奇妙な石の宮殿だ。
88歳現役写真家・西本喜美子さんの作品にも目を奪われる。自らがモデルとなり、「車に轢かれる」お婆さんを撮った衝撃的な写真。自らゴミ袋に入って捨てられていたりもする。不思議なのは、悲愴感が全く無いこと。笑える写真になっているのがすごい。
一番衝撃だったのは、「サッポロ一番」。酒井美穂子さんの作品(?)である。インスタントラーメンのサッポロ一番しょうゆ味。これを両手で持ち、袋の表面を右手親指で優しく擦る。朝起きてから夜寝るまで、10代半ばから20年以上、「制作」された「サッポロ一番」は累計7500個以上。その作品が、福祉事務所によって保存されているという。ほぼ1日1袋「制作」している計算か。これがアートになるのかと疑問の声も上がりそうだが、起きている間ずっと、酒井さんのエネルギーは「サッポロ一番」に注入されているわけだ。しかし、麺の形は四角く保たれたまま。破壊はなく、愛でているのか擦るのみ。そうなると、ただの袋麺では済まされない存在になっているような気もする。費やされた長大な時間と、連続する赤いパッケージ。それを想像すると、日々の残像を見ているようだ。この「サッポロ一番」は、「目で見える時間」なのかもしれない。

他にも、さまざまに数多くの作品が紹介されているのだが、興味は尽きない。
例えば、兵士たちの薬莢細工。第一次世界大戦中、兵士たちが塹壕で作っていたもの。薬莢といっても、花瓶になるくらい大きなものなのだが、彫刻したり切り込みをいれたりして思い思いのデザインで作られている。

正規の美術教育を受けずに、アーティストとして活躍されている人はたくさんいらっしゃると思うのだけれど。
マンガやアニメやイラストの世界なんて、ほとんどそんな感じじゃないだろうか。
描きたいから描く、好きだから描く、描かずにいられない。
そういう迸るような衝動やエネルギーが、人を惹きつける魅力の源になっているのではないかと。

アウトサイダー・アート……
幅が広いだけにとらえどころのないものだが、なぜか惹きつけられる。
posted by nbm at 12:18| Comment(4) | TrackBack(0) | 芸術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月18日

ゴールデンウィークあれこれ2017

今年のゴールデンウィークは、珍しく遠出して、北海道まで行ってきました。

遊水地遠景.jpg

池.jpg

ウソです。
そんなわけありません。いつにも増して、近場です。
この広大な景色は、渡良瀬遊水地。ラムサール条約登録地です。
埼玉県と群馬県と栃木県と茨城県とが交わる辺りにあります。近場とはいえ、往復で150kmくらいは走りました。
遊水地としては日本最大だそうですが、「遊水地」ってもの自体がそうそうないだろうから、最大を名乗るのもちょっと虚しい。
若かりし頃、時折この辺りで四駆で遊んでいたものですが、当時はまだここまで整備されておらず、ン十年振りに行ってみて、変貌ぶりに驚きました。
というわけで、甥っ子とバイク2台でツーリングです。
ちなみに、現在は車やバイクは外周路しか走ることができません。自転車は、内側まで走れますし、レンタル自転車もあります。

渡良瀬遊水地とは……

渡良瀬遊水地.jpg

こんな所でございます。
谷中湖というハート型の湖が目を引きますが、それ以外に第1〜第3まで調節池がありまして、普段は湿地帯のそれらが、洪水が起きそうなときには広大な湖と化し水害を防ぐ役目があります。
パンフレットを見ると、渡良瀬遊水地が成立するまでの歴史について、足尾鉱毒事件や田中正造の名前もちらほらと出てくるのですが、なんだか要領を得ず。色々と、政治的に難しい問題があったようです。
これも一種のダムのようなものですから、谷中湖に沈んだ旧谷中村の住民だった方々は移住を余儀なくされたわけですしね。

ま、それはさておき、どこまで行っても湿地帯が広がっています。
ウォッチングタワーという展望台がありまして、双眼鏡でバードウォッチングなんかができます。ここは、蜂に注意。ブンブン飛んでました。
谷中湖で釣りを楽しむ人、湿地帯でラジコン飛行機を飛ばしてアクロバット飛行を披露してくれる人、自転車やバイクでツーリングしている人、ウィンドサーフィンをしている人など様々。
なんにもなくて、とても静かでのんびりしたところでした。

第1排水門付近.jpg
ハートの細くなった先端部分が謎の構造になっていて……
ここには第1排水門があるのですが、水門の下を見ると、2本の隣り合った川がそれぞれ反対方向に流れているのがわかります。
谷中湖に向かって流れる水路(右側)と、隣で渡良瀬川に向かって流れる谷田川の流れ(左側)が反対なんですね。
不思議な感じです。
直接的に周囲の川を使って循環させているわけではなさそうですが、ハート型というのもあって、水の流れがなんだか心臓とそこを流れる血液のように見えます。

山手線の内側の半分にもなる広大な場所なので、全部を周りはしませんでしたが、それでも十分に湿地ツーリングを堪能してまいりました。
谷中湖の西岸にある道の駅きたかわべのそばには、「三県境」と呼ばれる場所があります。
埼玉県加須市・群馬県板倉町・栃木県栃木市の3つを3歩で渡れるという場所です。
全国に「三県境」は40ヶ所以上あるそうですが、3歩で回れる「三県境」は唯一ここだけだそうで。
明治・大正時代に渡良瀬川の流れが変わったことが影響して、埋め立てられあやふやになっていた三県境が2016年2月に確認されたということらしいです。
なんのことはない田んぼ沿いの水路の中に、標識があります。
ちなみに、道の駅きたかわべのスポーツ遊学館等でダムカードがもらえます。巨大なコンクリート堰堤なんてないけど、ここも立派なダムなんですね。



近場で済ませるゴールデンウィークシリーズとして、他に練馬駅近辺にも行ってきました。
つつじ公園.jpg

つつじ.jpg

練馬公園の目の前にある平成つつじ公園です。
以前のここは、ただただ駅前に広大な空き地があるといった感じで殺風景でしたが、現在は公園として生まれ変わってます。
花の時期的には終わりに近いかと思われますが、まだまだ綺麗に咲いていました。
そんなに広くないのですが、つつじの植え方が工夫されていて、奥行きを感じさせる作りになっており、色とりどりのつつじが折り重なるように見えるのが美しいです。
隣にある練馬区立練馬文化センター内では、ロボットのペッパーと戯れたりしてきました。

駅の反対側の商店街の中にある東神社(とうじんじゃ)には湧き水が湧いていて、「こんな所に?」と不思議な気持ちになります。敷地に足を踏み入れると、なんだか空気が違います。雑踏は急に遠くなり、しんとしています。
大きな四角い御影石の真ん中から湧き出るようになっていて、上から柄杓で汲んでいただきます。石のまわりにはシダが生えていて、まわりにめぐらされた紙垂とあいまって厳粛な感じです。四角い石になっているのは、汲み取る方角によってご利益が異なるとかで、説明書きがあります。
ご丁寧に持ち帰り用のペットボトルまで置いてあります。

夫婦ともに連休前後は仕事が混んでいてグロッキー状態だったので、近場のスポットでお茶を濁したゴールデンウィークでしたが、それなりに面白かったのでよしとします。
posted by nbm at 12:15| Comment(8) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする