2014年10月09日

月食の夜に

当初はお天気が悪くて観られないのではと思われた昨夜の月食。
当地はほぼ月にかかるような雲がなく、赤く怪しく輝きながら黒く欠けていく月を愛でておりました。

本日は、1冊の本について。
『遊星ハグルマ装置』 朱川湊人笹公人
朱川湊人の短い小説と、笹公人の短歌とが交互に掲載されている。
ちなみに、カバーイラストは諸星大二郎によるもの。日常的な遊びから、隣り合わせた異空間に嵌り込んでしまった少年が描かれている。

内容はいたって自由。
笹公人のシュールな短歌は好きで、歌集も読んだことがあるが、朱川湊人の小説は初めて。娯楽として読むには、大変面白い。小説と短歌とは、繋がっているようで繋がっていないようで微妙にリンクしている。
所々に昭和ノスタルジーが漂う。

まずは、笹公人の短歌で気に入ったものをいくつかご紹介。
マチャアキがテーブルクロスを引くごとく唐突にきみ他人となりぬ
海辺にてオカリナを吹く少年が永遠に童貞でありますように
白魔術の女がまわすステッキにユザワヤのシール貼られていたり
「静粛に!」少女の声に静まれる昭和の学園ドラマよきかな
悪霊に憑かれしファービー甘え声でオレゴン州立刑務所を語る
オリジナルの魔法少女を描いて消す戸塚ヨットスクールの少年

相変わらずシュールな歌が多い。バラバラに散らばったオブジェクト同士を適当にかき集めて繋ぎあわせたようでいて、ちゃんと筋道が通っていて、情景が目に浮かぶようだ。少々オカルトなどの不思議風味で味付けされていて、毒があり、なんとも癖になる。

一番印象的だった短歌は
屋敷跡の土中に冷える大判の黄金の微光を思いけるかも

これには理由がある。シンクロニシティというか、この本を読んでいる最中にネットで見た怪談に、この大判小判の話があったのだ。土中に隠されていた財宝が発掘されるなんて話も聞くけれど、お屋敷を建てるときに、柱の下や土台部分などに大判小判を埋めておくと、家が例え焼けても財産が残るということらしい。つまり、ある種の保険。旧家のお屋敷では珍しくないのだとか。件の怪談は、解体業者がそれを見つけ、家主が見ていなかったのをいいことにそれをネコババし、その結果怪異に遭うというもの。
旧家などと関わりなく生きてきたもので、こういった習俗があると初めて知った。ネットでそんな話を読んで勉強になったななどと思っていたら、この本のなかに上記の歌が出てきたというわけで。
何代も続く旧家なら、先祖が隠したその大判の存在を子孫が知らなくても不思議はない。人知れず、朽ちもせず、土中にひっそりと埋まり続ける大判。そのひんやりした感触が誰にも侵されないところがいい。

さて、今度は朱川湊人の小説について。
10ページに満たないような短編が32。いくつかは、シリーズものになっている。
やはり、秀逸なのは「ラビラビ」シリーズか。人語を話し心を持つぬいぐるみのうさぎ「ラビラビ」が、果ては宇宙まで行くことになる。しかも、話はそこで終わらない。
「ラビラビ」みたいにぶっ飛んだ設定もあれば、「赤い月」のような文芸作品めいているものもあるし、「暗号あそび」のようなスリラー系もある。「魔術師の天国」や「子供部屋の海」のようなほろりとさせるものもある。内容も文体もバラエティに富んでいて、流石。短い中で過不足無くまとめあげる点では、星新一作品のようだ。ちょっと褒め過ぎ?(笑)

短歌、小説、短歌、小説と読んでいく。数ページごとに想像世界をリセットされつつ、次はどんな世界が広がるのかとワクワクしながら読んだ。
どこから読んでもよさそうだが、シリーズものもあるので、初回は最初から読むべきなんだろう。
手に取る度に訴えかけてくる諸星大二郎のイラスト、ザラっとしたわら半紙のような紙の感触、短歌と小説が刻むリズム……これは、紙でできた本でなければ味わえない感覚。本という形態ありきの本。
宇宙空間に投げ出された身体が、巨大なハグルマに引きずり込まれてどこへともなく運ばれて行ってしまうような。翻弄されるのが楽しい1冊。
posted by nbm at 15:24| Comment(2) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
面白そうな本ですね。笹氏の作品はかつて購読してた雑誌の連載で読んでましたが、おっしゃるような言葉の断片による意外性続出ながらも綺麗に完結していて、特に下の七七でぐるりとひっくり返される快感…これはつまり“オチ”ではないかとひとりほくそ笑んでいたものです。
朱川湊人氏は知りませんでしたが、この作品を読んでみたくなりました。情報ありがとうございます。

わたしも皆既月食を楽しみました。その話はあっちのほうに…いや、seesaaだからこっちか(笑)、こっちのほうに『ひまわり8号』打ち上げの話と共にアップしました。
いま、日本中に限らずこれを観察できる全ての地域の…多くは無いかも知れないけれど同じ興味を持つ皆さんが空を見上げて、隠れゆくシンバルを見つめてるんだなぁと思うと、何だか嬉しくなってしまいました。

そうそう、“朝から流されると仕事に行きたくなくなる”美声ナレーションの三菱電機の企業PR的なラジオCM。
人工衛星ひまわり編もあるのですが、最近ようやく居どころをつきとめました。三菱電機の“法人のお客様”ページに隠れてました(笑)。確かにジェットタオルとかは個人が導入するものではありませんよね、ははは。

リンク貼ってますので、お時間あれば他作品とともにお楽しみいただければさいわいです。耳に気持ちいいです♪
Posted by 中林20系 at 2014年10月09日 19:21
中林20系 様

構成の凝った本というのはたまにありますが
私も初めての形態でした。
笹さんの歌は、確かにひっくり返される快感がありますね。
なるほど、“オチ”と言えるかもしれません。
落語好きの中林さんならではの観点ですね。
朱川さんは、私もこれから他の作品を読んでいきたいと思います。

月食の夜は、近所の子供達がみんなで外で空を見上げていて
その光景がよかったです。
子どもたちが天体現象に興味を持ってくれる世の中って
なんかいいじゃないですか。

美声の主は、能登麻美子さんですね。
リンク先のラジオCMを聴いてきました。
相変わらず耳に心地よいお声ですねぇ。
前クールから放映している「アカメが斬る!」という作品では
主要キャラだったのですが
割りと早い段階で殺されてしまい
出番がなくなってしまって、残念。
でも、常に数作品には出演されているので
今クールでもあの声が聴けると思います。
Posted by nbm at 2014年10月10日 10:00
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