2016年09月29日

57577となかなか進まない時間

『偶然短歌』という本を読んでみた。
仕事帰りにふらっと寄った図書館で、新刊の棚に置いてあった。偶然の出会いである。
せきしろ」さんの名前が目についた。せきしろさんの本は何冊か読んでいる。好み。これは見過ごせない。
しかし、「いなにわ」という共著者らしき名前もある。これは一体誰なのだ? そして、「偶然短歌」とは一体?

文章として書かれた中に潜んでいる五七五七七を抜き出してみたら面白かったということらしい。
いなにわさんはプログラマーなので、プログラムを組んでWikipediaの中から五七五七七となる偶然短歌を抽出してみた。そして、その偶然短歌についてせきしろさんがコメントしている。
意外な言葉の羅列が味わい深い一方で、抽出元がWikipediaなので、知らないことにぶち当たったりして、そっちも楽しい。

アルメニア、アゼルバイジャン、ウクライナ、中央アジア及びシベリア (「モロカン派」)

これが一発目に載っていたのだが、こういう羅列系はいくつもあって、文章化するときに日本人は無意識にリズムを考えるものかもしれないなと思う。

暑ければ寒いと震え、寒ければ暑いと汗をかかねばならず (「ハオカー」)

アメリカインディアンに伝わる雷と狩猟を司る精霊。雷の夢を見た時には、”さかさま人間”を演じなければならないと説明されている。これをやらねば、雷に打たれて死んでしまうと信じられているらしい。

「立ち乗り」を行っている最中に車のドアが閉まってしまい (「ペター・ソルベルグ」)

これには笑う。何のこっちゃと引用元の項目を見れば、「ペター・ソルベルグ」。
WRCラリーでチャンピオンを経験している名ドライバーなのだが、運転中はポカンと口を開けたアホな顔をする。それが、彼の集中している時の顔らしい。
Wikipediaによると、サービス精神が旺盛なソルベルグがパフォーマンスに失敗したときの逸話のようだ。

最近は特に仕事が忙しく、彼はなかなか家に帰れず (「ピクミン」)

どんな項目に書かれているのかと思えば、「ピクミン」。ゲーム「ピクミン」が、そんなストーリーから始まるものだとは知らなかった。

結局はそれは誰かの真似でしかなかったことに気づき始める  (「.hack//Alcor 破軍の序曲」)

かっこいい。ちょっと中二っぽいけど。

照らされて雨露が輝く半分のクモの巣だけが残されていた (「くもとちゅうりっぷ」)

美しい。1943年に作られた日本のアニメーション映画らしい。

前述の毛に覆われたはさみには糸状菌を蓄えている (「キワ・ヒルスタ」)

これは、「おわりに」の最後で紹介されていた。
調べてみると、2005年に南太平洋で発見された新種のヤドカリらしい。別名「イエティ・ロブスター」。
深海の熱水噴出孔の周りで発見されたという。

「おわりに」の中でせきしろさんが面白いことを言っている。
断ろうと思っていたこの本の仕事だったが、いなにわさんに会ってみたら、彼はせきしろさんが担当している雑誌の投稿欄の常連だったことがわかったというのだ。
そんな偶然で『偶然短歌』とは。


もう1冊。
”極小(ナノ)文学”と評された、ニコルソン・ベイカー『中二階』。 
読もう読もうと思いつつ、やっと読むことができた。
勤め先のビルの中二階のオフィスに向かう短いエスカレーターに乗っている間の話が、200ページほどの本になっているわけだ。それは、時間にして、数十秒ほどか。
時間軸が過去に飛んだりもするので、その辺はちょっと反則気味だとは思うが。
注釈が長くて、士郎正宗も真っ青。長すぎる注釈が何ページにもわたり、本編はどこまで読んだっけと戻るのに苦労しながら読み進むことになる。いや、注釈こそが本編なのか?
昼休みに靴紐が切れたので、ドラッグストアに買いに行き、オフィスに戻ってきた主人公。
靴紐が切れた原因を事細かに追求し、ストローについて考察し、レコードの溝に考えを巡らせ、中途半端な知り合いに出くわしたときの気まずさや、つつがなくトイレで用を足すことの難しさ、口笛の連鎖など、滔々と語られる。
すべてがどうでもいい話。だが、彼のこだわりや素朴な疑問も理解できる。
アメリカのオフィスの話なので、アメリカの文化的な習慣とか、アメリカのオフィスの雰囲気とか、人付き合いとか、映画などでは見落としてしまう細かい事柄が説明されているのも面白い。
24時間を1時間ずつ24話でリアルタイムに表現したドラマ『24』なんかよりも、ずっと濃縮された時間がここにある。
夢の中の時間感覚からすると、眠って夢を見ている時間は相当に短いらしいが、そんな感じだ。
でも、確かに、エスカレーターに乗っているようなときに、人はいろんなことを考えているものだろう。
もっとお固い雰囲気のお上品な作品かと思い込んでいたのだけれど、軽妙な作風でお下劣でさえある。
他の誰かに勧めたいかといわれればそうでもない。とはいえ、こんな読書体験はなかなかできないので、そういう意味ではお勧めしたい。
内容が面白いかどうかは人によると思うが、こんな小説もあるんだなということで。
posted by nbm at 17:46| Comment(2) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あれは太宰だったか、ハラガヘッテハイクサハデキヌ…などと、歩きながらも思うことがついつい七五調になってしまう、というのがありました。
これはもう、日本人の肉体や精神に染み付いてるものなのかも知れませんね。

歩行時の調子も関係するかも。ウキウキな時には三連というかシャッフルというか、正確には4ビートになると思うんですよ。スッタスッタスッタスッタ…これはジャズの4ビートですよ。
一方で…クレームを出してしまって謝罪しなければならず…そういうときは足取りが重くなり、リズムは跳ねずにイーブンになるんじゃないか、と。

タス…タス…タス…タス…

ここで七五調が生まれるのかも?と。もっともこれは、和服の歩き方でもあると思いますが。スッタスッタと歩いていては、着物が乱れますし。
あ、そういうところも関係してるのかな?

あと一方で、都都逸ってのもあります。七七七五ですが、これはちょっと気を持たせたり考えオチなえっち根多だったりなど、粋が問われるものなので、ただ作ればいいってもんじゃないところが難しいのですが、ラジオ番組『東京ポッド許可局』の投稿コーナー『Let!s都々逸』で読まれてる“OL都都逸”のクオリティの高さには参りまくるものがあります。

言葉遊び…大切にしたい民族文化ですね。NHKラジオの海外向け番組で俳句を翻訳したりして紹介してますが、海外各地の現地語で…俳句を楽しまれてる方が大勢いるそうですね。
どうなってんだろと思ったら、リズムがそうなるように音節を選んで言葉をつなげて作られてるよう。

回文もそうですが、日本語は面白いですね。

Posted by 中林20系 at 2016年10月02日 22:43
中林20系 様

「せーの!」っていう掛け声とか、三三七拍子や三本締めとか、日本独特の間とかリズムのようなものって、きっと日本人には刻み込まれているのでしょうね。
コンサートの掛け合いとか合いの手とかもそうですね。
みんなで練習したわけでもないのに、バッチリ。
海外のライブ映像とか観ると、グダグダだったりするのに。

よくよく考えてみれば、なぜ五七五のリズムが心地よく感じられるのか、根拠がないなと思って。
でも、自然にそう感じるじゃないですか。

日本人は、言葉あそびも好きですね。
発音が単純で、音にはめ込みやすい言語ってのもあるのかもしれません。

都々逸ってのも渋いですね。
粋なお姐さんが三味線を弾きながらというイメージですが、OLさんのカジュアルな都々逸というのも面白そうです。
Posted by nbm at 2016年10月03日 01:24
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