2016年12月26日

古めかしい2冊

『家守綺譚』 梨木香歩
梨木香歩さんの本は、順を追ってゆっくり読もうと思っていた。
とあるところで、家を舞台にしたホラー小説が挙げられていて、その中にこの本が紹介されていたので、まずはこの本から読んでみることに。

100年ほど前の話。
空き家となるはずだった友人の家の管理を任された男が、この家で様々な怪異と出会う。
この友人は湖で行方不明になったきりだったのだが、ことあるごとに掛け軸の中の水辺から舟に乗って現れる。
物書きを生業にする男、時折家に帰ってくるこの世の者ではない友人、物知りな隣のおかみさん、謎多き犬ゴロー。
ひとつひとつの話は短くて、主にこの家の庭に息づいている植物に因んだものになっている。そして、木々や花々を追っていくうちに四季が巡っていく。
「湖」とか「疎水」とか「竹生島」とかが出てくるので、どうやら琵琶湖周辺が舞台となっているようだ。
作者の梨木さんは、滋賀県にお住まいらしい。

以前に、万城目学の『偉大なる、しゅららぼん』について記事にしたときにも書いたと思うが(→過去記事古の力宿る湖)、琵琶湖は古代湖であり、古くから神話と繋がっていたりして興味深い湖だ。
高校生のみぎり、修学旅行で琵琶湖には行っているのだが、あの時はさほど興味もなく。事前に色々と勉強しておけば、その地に立ったときにもっと何かを感じられたのではと思うと悔しい思いになる。
埼玉県人の私が想像するに、滋賀県は埼玉県と似ているところが多いのではないかと勝手に親近感を持っている場所でもある。

さて、肝心の内容はというと、様々な植物と怪異が楽しい。
怪異といっても、おどろおどろしいものではなく、実害がないというかなんというか。
庭のある家であれば、どこにでもありそうな植物たちが、俄然存在感を増す。
イラストも何もないので、草木や花の名前を見ても、どんなものなのかわからないものも多いのだが、画像検索してみると、「あぁ、これね」という感じで見たことがあるものばかりだ。
しかし、ふきのとうに雌雄があるとは知らなかった。
全体的に風情のある物語。時代設定も絶妙だったと思う。

読んだらきっと気にいるだろうと想像していた通り、梨木香歩さんの文章はスッと頭に入ってくる。
私には相性の良いものだと確信したので、他の作品も徐々に読んでいこうと思う。
楽しみがまたひとつ増えた。


『未来のイヴ』 ヴィリエ・ド・リラダン
いやぁ、読了に長い時間をかけてしまった。実に、足掛け1年以上。読み終わった時の達成感たるや、これまでに味わったことがない。まさしく”読了”といった感覚。他に誰も借りないのをいいことに、図書館で断続的に借り続けた。途中で、文庫化されたものを購入しようかとも思ったが、こうなりゃ意地だ。
この本、全集なので厚くて重い。約1kgある。試しに持ち歩いてみたものの、重さで手が震えて読めたものではない。ということで、持ち歩きは断念。
その上、旧字体が多用され、旧仮名使いも見受けられる文章で、読みにくいことこの上ない。
齋藤磯雄さんの訳は美しく、それが悪いわけではなくて、こちらの教養の無さが問題なのであって。
旧字は頭の中で変換しつつ読んだ。これをいちいち辞書でもめくろうものなら、流れが阻害されて前に進めない。たまによくわからない漢字があっても、そこは脳内意訳でスルーだ。

以前から、「ハダリー」という存在は気になっていた。
押井守の『攻殻機動隊』シリーズである『イノセンス』には、「ハダリ」という愛玩用アンドロイドが出てくる。
伊藤計劃&円城塔の『屍者の帝国』(→過去記事生と死をめぐる物語)にも、「ハダリー」という美しい女性の姿をした人造人間が出てくる。
これがどこからきているかと調べてみれば、ヴィリエ・ド・リラダンの『未来のイヴ』に出てくるらしいとわかり、ならば読んでみたいと思って手にとってみたはよいのだけれど、格闘すること1年以上と相成った。

エワルド卿というイギリス貴族が、友人であるあの発明王と思しきエディソンを相手に嘆く。
美しい女性に恋しているのだが、あまりにも中身がからっぽで我慢ができない。そのことを悲観して自殺してしまいたいと思うほどだ、と。
それはちょうどいいとばかりにエディソンが提案する。
見た目はその女性のままに、中身を教養ある理想的な女性に変える方法がある、と。
それが、「ハダリー」と名付けられた人造人間だった……

エディソンの荒唐無稽な提案に、エワルド卿がなかなかうんと言わず、話が進まない。
しかし、後半のハダリーの仕組みの解説の辺りからは俄然面白くなる。
現代から想像するような無機質な集積回路的や金属質の機械装置ではなく、アナログでどこか有機的な仕組みの数々に胸が踊る。美しく、血の通った女性に見える存在ができあがっていく過程が実に魅力的に描かれている。
そして、最後の種明かしというか裏話はそっちから来るかという変化球だったし、結末はそれ以上の意外性があり、呆気に取られる。
つまり、1886年に発表されたとは思えない、実に前衛的で実験的なストーリーなのである。

注釈にあるのだが、「ハダリー(Hadaly)」とは、古代ペルシャ語で”理想”を意味するとのこと。
ギリシャ神話にあるピュグマリオーンの話がモチーフになっているらしいのだが、ピュグマリオーンは自分が創りだした女性の彫像に恋してしまい、それを見かねたアフロディーテが彫像に命を吹き込んでくれて、妻にすることができたという話。
いつの時代も、男性が焦がれる女性像というものがあり、それを実現させるためには手段を選ばないという情熱が生み出すお話というわけだ。
男性が求める理想の女性像というと、容姿が完璧で、従順な女性とか、教養もあるに越したことはないとかそんなところだろうか。
細かい好みは千差万別だと思うのだけれど。
ハダリーは自分で、性格の設定はどうにでも変えられるというようなことを言っていた。至れり尽くせりだな。

自分が男性だったとして、自分の理想どおりの完璧な女性が作り出せるとしても、それで満足できるものだろうかと訝しむ気持ちの方が強い。
ないものねだりというか、完璧すぎるのもつまらなくなって、また別のタイプの女性を求めたくなるような気がするのだけれど。
逆に女性からして、理想の男性を作り出せるとしても、理想の家を建てるのが難しいみたいに、後からここがやっぱり気に入らないとか不具合があるとか細かい部分が気になってくるんじゃなかろうか。
要するに、自分の想定内で設定した相手だったら、いつか飽きがくるのではないかと。
自分には考えもつかないようなことをしたり言ったりする相手だからこそ、面白みがあるというものだと思うのだけれど、これも好みの問題といえばそれまでか。

SFの名作古典をひとつ読了しただけなのに、大仕事を片付けたような気になる壮大な作品だった。
posted by nbm at 00:39| Comment(6) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。

新年明けましておめでとうございます。
旧年中は、大変お世話になりました。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

記事本文とは関係のないコメントであること、
どうかご容赦下さい…すみません。
Posted by kz-1 at 2017年01月01日 20:40
kz-1 様

あけましておめでとうございます。
ご丁寧な新年のご挨拶をいただきまして誠に恐縮です。
今年はもう少し記事を書きたいと思っていますし
kz-1さんのブログにもちょくちょく遊びに行かせていただきますので
こちらこそ、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
Posted by nbm at 2017年01月02日 00:13
あけましておめでとうございます

新年のご挨拶をいただき
ありがとうございました

今年もよろしくお願いします♡

nbmさんはお仕事は順調ですか?
不可なくできていれば
良いことだと思っています
Posted by プリュム at 2017年01月02日 18:48
プリュム 様

おめでとうございます。

おかげさまで、社会復帰してから1年が過ぎました。
今のところ継続して雇ってもらっています。
派遣ですから、いつまで続くかはわかりませんが
雇ってもらえる限りは続けようと思っています。
とはいえ、長くてあと2年ですが。
その後のことはその時に考えようと思っているので
気楽に続けます。

本年もよろしくお願いいたします。
Posted by nbm at 2017年01月03日 02:16
遅ればせながら新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

『未来のイヴ』、それそのものも深いことかと思われますが、男って未だ普遍的にそういうとこあるよなぁ…と、いートシして独身の身には言い訳とかいろいろと浮かんで来るのです(爆)。
理想を追い求めるというのはかつて…誰だったかのコミックでセリフとして出てきたそれを思い出しました。
ワープロ全盛期でしたが、新機種に買い換えようと思いつつも…もうちょっと待てばもっと好い性能のそれが登場するはずだと思ってしまうので、なかなか買い換えられない…それが再婚に投影されてた話でしたが。

おっしゃるように、もし完璧に理想な女性が出現して、向こうもこちらを好いてくれたとしても(←実はここが抜けてるフィクションが多い)、満たされてしまうことの不安とか(芥川の『芋粥』とか)、必ず出てきてしまうことと思います…やっぱりnbmさん、こころに男…しかも思春期男子が潜んでるでしょ(笑)?

今年も面白い作品のご紹介、お願いいたします。

Posted by 中林20系 at 2017年01月03日 21:39
中林20系 様

本年もよろしくお願いいたします。

中林さんも、男性心理として、エワルド卿の企みはやはり肯定されるようですね(笑)
女房と畳はなんとやらというのは普遍的なことなのでしょうか。

女性的な考えをする人が読むと、どう感じるのでしょうね。
脳みそが中二男子の私には想像できません(笑)

昨年後半は、ブログをサボり過ぎました。
今年はもう少し頑張りたいと思いますので、お付き合いくださいね。
Posted by nbm at 2017年01月04日 00:18
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