2017年04月23日

貯めこんで8冊

本の感想が溜まってしまったので、放出をば。

『夜行』 森見登美彦
京都の語学学校で知り合った6人の男女。そのうちの一人である長谷川さんは、十年前に失踪しているのだが、十年ぶりに集まった5人が、それぞれに会わなかった時間を語り始める。その話はみな、失踪した長谷川さんと、連作の銅版画「夜行」に関連していた……

森見登美彦作品は、7割くらいは読んでいると思う。
いつものおちゃらけた京都ワールドからちょっと離れて、あまり森見登美彦らしくないようにも思える。最後は京都に戻ってくるのだけれど。
別のレイヤーにある世界と行ったり来たり。そう、世界は曖昧なものなのだよね。
自分の認識している世界の曖昧さに気付かされるという点では、壮大なホラー。


『血流がすべて解決する』 堀江昭佳
細胞に必要な酸素や栄養分を運び、老廃物も運ぶ。ウイルスなど異物が入ってくれば防衛する。体温を保つ。などと様々な役割がある血液。
こういう健康本はあまり興味がないのだけれど、自分が病的に血流が悪いため、何かのヒントになればと手に取った。
著者は、出雲の老舗漢方薬局で漢方薬を処方している薬剤師の方。5万件におよぶカウンセリングで患者さんの悩みを聴いているうちに、気づいたことを書かれている。

まず、血液が足りないことを問題視して、血を増やすことを主眼としている。それには、段階を踏んで対処していくべきだと。
血を作る→血を増やす→血を流す。この順番が大事らしい。
血を作るためには胃腸を丈夫にしてしっかり食べ、血を増やすために質の良い睡眠を取り、温めたり運動をしたりして血液を流す。書き出してみれば当たり前のことなのだが。
鉄分を摂るには、ほうれん草よりも鶏肉の方が効率がよいというのは衝撃的。現代のほうれん草は鉄分をはじめ栄養価が激減しているのだとか。それに、鶏肉に含まれるヘム鉄の方が、野菜の非ヘム鉄よりも5倍も吸収されやすいという話。
「おなかが空いた」と思ったら、「胃腸を掃除中だから食べないで」というサインだというのも、これまでの考え方を覆される。
睡眠の話だと、漢方では、午前0時を挟んだ前後2時間(子の刻)は、体の陰と陽が入れ替わる時間とされ、実際に交感神経と副交感神経が交代する時間。その後の1時から3時が血液を作る時間なので、23時には寝るべきだと。この血液を作る時間というのがあまり説明されていないのでよくわからないが、睡眠と体の内部の働きのタイミングは考えるべきなのかもしれない。


『レモン畑の吸血鬼』 カレン・ラッセル 松田青子 訳
どこかの書評で見かけて、タイトルが気になって読んでみた1冊。
訳者も好みでないので、読み進むのが辛かった。途中で投げ出そうかと思ったほど。
そういえば、この著者の『狼少女たちの聖ルーシー寮』を読もうと思っていたんだよなと後から気づく。
とにかく突飛で、生理的に受け付けないグロテスクさがある。しかし、読み慣れてくると、これも有りかなと思う自分に驚く。
レモンで乾きを癒す老いた吸血鬼、自身が蚕となり糸を繰り出す女工たち、馬に転生する歴代米大統領、中東での戦闘の惨劇が背中の刺青に再生される兵士……
アメリカの庶民のリアルな日常や、短いとはいえアメリカ史と呼ぶべき事柄も、知っているようで知らないものだなと思う。
例えば、開拓民に土地を与えたホームステッド法には、家に「窓」がなければならないという話になっているが、これが事実なのかどうか。
そんな感じで、リアルと非リアルが混濁して、区別がつきにくい辺りが、余計に気色悪い感覚を生み出すのかもしれない。


『日本の不思議な建物101』 文 加藤純/写真 傍島利浩
「ざわざわ」「うねうね」「パキパキ」などテーマごとに、日本国内の一風変わった建物を紹介してくれる1冊。
実際に足を運んで目の当たりに観たことがある建物、前を通ったことはあるけれどまじまじとは観たことがないビル、存在は知っていていつか観に行きたいと思っている構築物も載っていたけれど、ほとんどが未知の建物でワクワク。
たまたま、先日、環八を車で走っていたときに「M2」ビルを発見!この写真集で知ったばかりの建物だ。
巨大なイオニア式の柱が頂きにそびえる威容。いや異様?
しかし、奇天烈である。
今は葬儀場となっているが、元々はマツダの企画開発拠点として建てられたのだそうで。
こういった趣向を凝らした建物の数々は、写真を観ているだけでも楽しい。
ほとんどが都内の建物なので、すぐに観に行けるけれど、古いものは壊されないうちに観ておきたいものである。
とはいえ、大半は2000年代に建てられた新しめの建物。
いつのまにか面白いものが増えていたのだなと思う。


『江戸前の男−春風亭柳朝一代記−』 吉川潮
昨年あたりから、アニメ『昭和元禄落語心中』とかNHK『超入門!落語THE MOVIE』の影響で、今更ながら落語に興味が出てきた。すると、落語ファンであるメル友が、1冊の本を貸してくれた。
それが、この『江戸前の男−春風亭柳朝一代記−』である。
正直な話、春風亭柳朝(5代目)はあまり記憶に残っていないのだが、柳朝の一生を通して、昭和の落語界の様々なことが描かれており、いろんな意味で勉強になった。
『笑点』くらいしか観ていなかった私は寄席に行った経験もなく、落語や落語家の世界についてはほとんど知らない。師匠と弟子との関係は確立されているものの、よその師匠や門下と意外と協力体制にあったり、名跡が一門を越えて入り組んだりしていて、落語界全体での結びつきが強いものなのだなと思う。
柳朝は、江戸っ子を絵に描いたような人。ダンナさんの親類が江戸っ子気質なので、江戸っ子気質について語られている部分は大いに頷ける。「粋」とか「酔狂」とか、そういう感覚がよく伝わってくる。遊び歩くばかりで生活費をくれない旦那に、おかみさんは相当苦労されたと思うのだけれど、それでも働き詰めで柳朝を支える姿には感動すら覚える。
この小説、柳朝が死ぬ場面から始まり、死ぬ場面で終わる。素晴らしい構成で、全編通すとまるで人情噺のようだ。特に、子を持たなかった柳朝夫妻が、友人らの子供にかける愛情が素晴らしい。
親でもなければ子でもない師弟関係というものの微妙さもよく描かれているし、弟子同士の関係も面白いものだ。
落語の素人には、名跡で呼ばれると誰のことやらよくわからなかったり、二ツ目・真打と出世するに連れて名前が変わっていくのでわかりにくい部分もあるが、勉強になったことも多いし、ひとつの小説としても読み応えのある面白い作品だった。


『浮遊霊ブラジル』 津村記久子
内容や作者のことはまったく知らないままに、ただただタイトルの面白さで読んだ1冊。7編の短編から成っている。
肩の力が抜けているというか、すごく軽いタッチで描かれている作品ばかりで非常に読みやすい。
物語消費しすぎ地獄に堕ちた主人公と、おしゃべり下衆野郎の地獄へ堕ちた友人が出てくる「地獄」も面白かったのだが、やはり表題作「浮遊霊ブラジル」が最高だった。
アイルランドのアラン諸島に行く寸前で死んでしまった爺さんが、楽しみにしていた人生初の海外旅行に行けなかったことで成仏できない。物体をすり抜ける霊体では乗り物に乗ることもできず絶望していたが、人にとり憑くことを覚え、その技術を駆使してアラン諸島を目指すというお話。
なんだ?このロードムービーは。なかなかうまくいかないようでいて、意外な助けが入ったり、やはりうまくいかなかったり。
「地獄」にしろ「浮遊霊ブラジル」にしろ、扱っているテーマはホラーなはずなのだが、内容的にはポップでファンキー。ときに吹き出しそうになりながら読んだ。
全体的にサッカーネタが多かったり、南米に偏ったりしている部分が、著者の嗜好を反映しているのだろうなと推測させる。
私はドロドロしたものが好きじゃないので、こういった上っ面のような軽い作風は嫌いじゃない。でも、上っ面を書いているようでいて、実は水面下にあるものに気付かされるというか。「深いなぁ」とも思わないけど、それが逆に親近感だったり共感だったりするのかなとも思う。
というわけで、この方の作品はまた読んでみたい。


他に読んだ本。
SF短篇集『ヴィジョンズ』
宮部みゆき「星に願いを」・飛浩隆「海の指」・木城ゆきと「霧界」・宮内悠介「アニマとエーファ」
円城塔「リアルタイムラジオ」・神林長平「あなたがわからない」・長谷敏司「震える犬」
錚々たるメンバーの割には、どれも今ひとつ……

『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』 ピーター・トライアス
第二次大戦で日独が勝利しアメリカ西海が日本の統治下にある世界を描いたSFということで、豊田有恒の『モンゴルの残光』みたいな歴史改変SFを期待したのだけれど、浅いところを漂っただけで不発。
posted by nbm at 00:45| Comment(4) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
血液に関しては確かに、基本なんじゃないかと思います。これありきで、身体が稼動してるんだし。

※それを送り出す心臓がそもそもの要ですが

スクワットやストレッチで体質が改善するのも、それは血流が改善されるからってのが一番の理由かなとも。
腰痛との闘いも、相撲的スクワットや相撲的ストレッチでかなり改善されました。まあ、まだ先は長そうですが。


バブルの塔みたいなM2、かつてその時期に近くへと仕事でうかがってたので(=そこは三菱のそれでしたが)、何だか懐かしいと思うと同時に、世田谷美術館へ自転車で伺った際に…わざわざ見に行ったり(笑)。
で、新らし目に建てられた物件だけに、微妙なミスマッチ感が生まれてる…短期間に熟成というか醸成が急激に進んでるのかも?


あと、前項の映画については…かつては暇あらば覗いてた口でした。仕事が午前中か昼押しで終わることが多いので(=いまだにそうですが)、午後は気になる映画をちょいと…みたいな。週に数本は観てたかな?仕事で都心繁華街を動いてる利点もあったとは思いますが。

で、地下鉄に乗ってて、テロで死を目の当たりにする恐怖に直面して以来、映画館のような暗くて避難経路のはっきりしないところへは伺えなくなって…それ以来、映画館へは行けなくなってしまったんですよね。
あの時は…それを語る気持ちもいまだにありませんが、これがPTSDというものでしょうか。

今では親友が貸してくれた『アイアンマン』シリーズなどを自宅で楽しんでる程度となりましたが、ホントは映画館の大きなスクリーンで観たいんですよね。
音響を含めて、あれほどのドキドキは他にあまり無いものですし。


今回も面白い紹介、ありがとうございます。







Posted by 中林20系 at 2017年04月23日 22:28
中林20系 様

親兄弟をはじめ、親類に心臓に欠陥があることが多く
自分ももしかしたら心臓がどこかおかしいのかもと
思ったりもします。
調子の悪い部分がどこかにあるとつらいものですが
上手に折り合いをつけていくことを覚えないといけないのかなと
段々思うようになりました。
どんなケアをしたら現状維持していけるのか。
常に自分に問いかけるみたいな感じですよね。

新参の建物の周囲との違和感というのも、なぜか薄らいでいくものですが
単純に見慣れるというだけでなく
おっしゃるように周囲との関係性が熟成されていくというのは
面白い視点ですね。

ン十年も行かなかった映画館に行ってみて
たまには行ってもいいかなと思いました。
行くも行かないも、ある意味「習慣」なのかもしれませんね。

中林さんも、あの場にいらっしゃったのですね。
私も、乗り合わせていました。
ただ、直接被害がなかった路線なのですが。
あの時は何かもわからぬまま
不発だったモノが警察官によって運ばれていくのを目撃しました。
勤務先に着いてみると、裏手の方に被害が大きかった路線の駅があり
大騒ぎになっていました。
私は閉所が苦手で、地下空間には長く居たくないです。
苦手なものは、避けるに越したことはありませんね。

今の時代に、ドライブインシアターがあればよかったですね。
車は必要ですが。
あとはラジオがあれば大きなスクリーンで観られますからね。
残念ながら、国内には残っていないようです。
時代にそぐわないといえばそれまでですが
面白い存在だったのになぁ。
Posted by nbm at 2017年04月24日 01:26
健康ネタの血流は
nbmさんのあらすじを読んだだけでも
納得ですよね
うっ血するとか、血の気がないとか
血は栄養や酸素を細胞に送り届ける役目がある
大事な要素ですからね!
血が良い?人なら
皮膚もキレイなはずです

文体と相性が合わないことが
ありますか?やはり・・・
確かに読みにくい文脈ってありますよね
特に切れない文節のものは苦手です
どこまで読んで話がわかるのかと
眩暈がしますよ
この手の文章は役所に多いのですぅ(゚д゚)!

ブラジルは軽めですとな
まあね、あのラテン系でドロドロな霊が出ても
困るしなぁ〜
明るくサンバ♪にのってやってくるとか
機会があれば読んでみたいですぅ



Posted by プリュム at 2017年04月25日 20:54
プリュム 様

血液ネタに関して、この本では
ドロドロとか貧血(血が薄い)とかいう前に
絶対量が足りない人が多いということでした。

読んでみたら、読みにくい、または受け付けない
ということは多々あります。
それでも、実際読んでみないとわかりませんからね。
前の記事でも書きましたが、失敗してナンボ。
駄作を読めば良作の良さがわかりますし
自分の好みも固まっていきますしね。
それでも、新たなものにチャレンジしないとね。

『浮遊霊ブラジル』も好みが分かれそうな作品です。
著者の津村記久子さんは芥川賞も受賞されている方なので
筆力はあると思います。
機会がありましたら試しに読んでみてくださいね。
なぜに「ブラジル」なのかは、敢えて語りますまい。
Posted by nbm at 2017年04月25日 22:32
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