2021年02月09日

2020年に読んだ本 その3


『ファミリーランド』 澤村伊智
澤村伊智のホラー作品はほとんど読んできたが、初のSF。
作者のいたずら心がそこここに。読んで楽しい極近未来ディストピアの数々。SFはどうかと思ったけれど、イケる。詳しく書いてしまうと面白くないので、ほんの少しだけ書き留めておくことにしよう。
「コンピューターおかあさん」
SFの体をとったホラーと言ってもいい。6編の中で、一番現実化しやすいようにも思えるから、始末に負えない。既に、留守宅のペットを見守るシステムなども実用化されているし、スマートフォンから電気やエアコンの操作もできる。コロナ禍で高齢者施設への訪問の代わりにビデオ通話が導入されてもいる。友人・家族同士で追跡アプリを使い合うなんてことも聞く。遠く離れた地の施設に入居している高齢家族とタブレットで対話し、様々な遠隔操作さえ可能な世界はもうすぐそこにある。この物語では、そこから一歩踏み込んではいるが、実に嫌な世界だ。
「翼の折れた金魚」
意識的に優生人類を作ることが「普通」である世界。自然に生まれた子供は差別され蔑まれるのだが……というストーリー。優生学に洗脳された人間の感覚が恐ろしい。画像を想像しながら読むと、『光る眼』が想起されるのだが、作品中でも『光る眼』と書かれていて、自分の想像が間違っていないことを確認する。ただし、『光る眼』はコメディ扱いになっているということだった。異質なものへの恐怖と、洗脳社会を生きる苦悩。
「マリッジ・サバイバー」
マッチングサイトを利用しての結婚。それが、思わぬ方向へと向かっていく。これも、システムによる監視がテーマ。そこに「匂い」のエッセンスが加わっているところが面白い。
「サヨナキが飛んだ日」
自宅看護用小型飛行ロボット「サヨナキ」が普及している世界。看護だけでなく、日常の様々なことに干渉してくる「サヨナキ」。でも、本当に干渉していたのは……?愛憎が交わっている人間の行動を観るにつけ、そこまではロボットもまだまだ真似できまいと思うと複雑。
「今夜宇宙船(ふね)の見える丘に」
思い介護やそれによる貧困の問題がテーマ。『ソイレント・グリーン』が脳裏をよぎる。ほんの少しばかりの希望が描かれるのかと思いきや、最後の肩透かしには笑うしかない。
「愛を語るより左記のとおり執り行おう」
掉尾を飾るのは、葬儀の話。バーチャル葬儀が当たり前となった時代。亡くなる当人の希望によりリアルな葬儀を行うことになった家族とそれを取材するウェブテレビのスタッフ。手探りのリアル葬儀準備は、てんやわんやの大騒ぎ。これまた、結末に笑う。




『フジモトマサルの仕事』
イラストレーター・漫画家・文筆家。フジモトマサルさんの残した仕事を1冊にまとめた本。
クラフト・エヴィング商會や長嶋有、穂村弘作品など、ロクにお名前を存じ上げないまま、そこここで作品を目にしてきた。それが「フジモトマサル」という方だったのかぁと。
書き留めておきたいことがたくさんあって。
表紙を開くと最初の扉絵は映画版『シャイニング』が隠れていた。ちょうど、この映画を観返したばかりだったので、カーペットの模様にはすぐに気づいた。キツネたちが談笑するパーティーの一コマ。よく見ると、見切れたポスターは『シャイニング』のものだった。映画は相当お好きな方だだったようだ。

「自分が青だと感じている色は他の人の見ている青と同じだろうか」
誰しもが考えることだろうけれど、こんなことから始まり、いろんな面で共感できる感覚の持ち主に思えた。
単なる私の妄想だけれども、もしも知り合いになれたら、いろんなことを話して聴いてみたかったなと思わせる方だった。もっと、早く知りたかった。
だから、これから、フジモトさんの残した作品を読んでいきたいと思った。

インタビューの中で語られていることの一端。
なんだってダウンロードできてしまう今の世の中。
「若い人がかわいそうだと思うのは、すぐ探せちゃうってこと。なんでも比較的簡単に入手できるから、憧れを維持しづらいんですよね」と。
「ぴあ」でチェックして遠くの市民会館で安く上映している映画を観に行ったり、ウィキペディアみたいに一覧で作品を追う方法がない中でいろんな図書館に行ってラベル検索したり。情報は自分からどん欲に取りにいかないと得られない時代の話が懐かしい。
こうやって、自分から取りに行って得る情報や体験というのは、自分の身に刻まれるような気がする。

制作時のエピソードも面白い。画面を逆さまにして上下左右、色やカタチのバランスをチェックするのが常だという。逆さまにすると、歪みやバランスの乱れに気付きやすいのだそうだ。
回文制作も得意とするフジモトさんだが、世界をひっくり返してみることで、気づくこともあるのかもしれない。

寄稿している何人かの人が共通してフジモトさんの印象を「お坊さん」みたいだと言っている。そして、おしゃれな方だったとも。
長嶋有さんが語るフジモトさんのエピソードは、お腹にズシリと響くような感じがする。

四十二歳で死ぬと決めていたというフジモトさん。胃痛が続くのを不審に思って病院に行ったら、盲腸が破裂して腹膜炎になっていたという体験から、死を意識するようになり、四十二歳ぐらいに死ぬと決めておいて、行動しようと思ったのだそうだ。実際に死ぬかは別にして、人生の区切りのつもりだった。四十二歳の誕生日までに仕事を終えるように調整して、その通りにやり遂げ、その1か月後に白血病と診断されたという。その時も、痛風がきっかけでたまたま白血病がわかったということらしい。その時は生還したが、その後再発を繰り返し、四十六歳で亡くなった。
造血幹細胞移植を受けたら、血液型が変わり、花粉症も無くなったという。

「給水塔占い」は読んでみたい。
「岩波国語辞典 第七版」では、表紙に捺された植物の図柄を手掛けたという。
数多のイラスト作品が掲載されているが、ほんとうにかわいくて毒があって堪らない。

posted by nbm at 11:33| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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