2021年02月09日

2020年に読んだ本 その5

『怪談びたり』 深津さくら
大学時代に実話怪談をテーマに論文を書いたという著者。出会う人に「不思議な体験はありませんか」と尋ねていくうちに、自身が怪談の語り手となっていった。
実話怪談は数多く読んできたが、なんだろう、どこか他と違う。聴いたことがないパターンが多いし。
例えば「大きな皿」。お気に入りの大皿をふきんで拭いていたときに落としてしまい、割れてしまった。小さなかけらも出ず、綺麗に真っ二つに割れた皿。しかし、その半分がどこにも見当たらなかったという。
物が消えるなんてあり得ない。でも体験している人がいる。私も、指輪がなくなって、知らないうちに戻ってくるという体験をしたことがあるから、現時点で科学的に説明できないことでも、そういうことがあることを知っている。
刃物を呼ぶ振袖の話とか、とある神社で鏡文字の絵馬を読んでしまってから無意識に鏡文字を書くようになった話とか、交差点で幽霊が自分の身体を通り抜けていったときの感触の話とか。まず、「ざざざざざ」という耳一杯の騒音。それは極小の冷たい粒の集合体で、内臓や血を冷やしながら通り抜けていき、最後に体の中身が後ろに引っ張られていくように感じたという。
知らずに体験した現象が、後から説明づけられるパターンも多い。
説明できない奇妙な味わいの話も。「黒い車」についての話は興味深い。夜中に釣り場を目指して山中を車で走っているとき、カーナビの指示通りに進むと怪しげな道の先で朽ちた車と供物の山に出くわす。自分も供物を捧げ、無事帰ることができたが、二度とその道を見つけられないという話。
この話、著者の周りの複数の人が別々に著者自身から聴いたというのだが、著者にはその記憶が全く無いという。
かのスーパーボランティアと思しき人の話も奇妙で面白い。
写真店に勤務していた人の話で、国民的テーマパークの城の前に現れる全身オレンジ色の人影が、現像する度に近づいてくるというのも面白かった。パターンとしてはよく聴く話だが、フィルムを持ち込むお客さんはさまざまなのに、まるでこちらに気付いているかのように近づいてくるというのが不可解だ。
文章が巧く、情景がすっと浮かぶ。挿絵も著者が描いているそうだが、印象的で良い。もっと読みたいと思う実話怪談本だった。

『海の怪』 鈴木光司
『リング』シリーズで知られる鈴木光司の海に纏わるエッセイ。
「怪」とタイトルにあるが、怖い話は期待はずれだった。実話怪談を多く読んでいる身としては、実話であるのに文体が修辞の多い小説調になると怖さが半減することがわかった。小説だと思えば別の話なのだが、どうにも中途半端。タイトル詐欺と言ってもいい。ただ、「怪」などと思わずに、海に纏わる話として読めば、あまり普段触れないジャンルなだけに興味深い。知らない単語もたくさん出てくる。一生行くこともないような国や地域の話だらけで、地図や写真を検索しながら楽しんだ。

『コドモノセカイ』 岸本佐知子
子供を主題としたちょっと奇妙なあじわいの短編集。岸本佐知子さんが、海外の作品を編訳している。
12編あるが、ひとつ既読のものがあったので、それは読まずに飛ばした。
アリ・スミスの「子供」はモダンホラー風。エトガル・ケレットの「ブタを割る」と「靴」は寓話的で、両方とも素晴らしい。
数ページで終わってしまう短いものもある中で、一番長く60ページあるエレン・クレイジャズの「七人の司書の館」は読みごたえがあった。古く、人々に忘れられた図書館の中だけで育つひとりの女の子。ひたすらに静かな時間が流れる図書館の生活を想像するだけで、心が平穏になる。
やっぱり私は、岸本佐知子さんのセンスが好きだ。とてもしっくりと馴染む感じ。名久井直子さんによる装丁も素敵。ある2人のお子さんが大切にしているのであろう宝物が並んでいる写真。まつぼっくりや蝉の抜け殻、錆びた知恵の輪、壊れたブレスレット。これらだけで、子供にしかわからない世界観が存在していることを伝えてくれる。
posted by nbm at 11:50| Comment(4) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
『コドモノセカイ』が気になって気になって…でも電子版は出てなさそうですね。と思ったところで『フジモトマサルの仕事』への書評で共感したことと反対だなと苦笑。

あのころはそうでしたね。マイナーな映画…学生のころは主に図書館で自主上映されてる無声映画コレクションに夢中になり、その後は一般館では上映されない内外のインディーズやカルトものの映画など(=シネマアルゴ新宿には通ってました)、ホント『ぴあ』にはその情報でお世話になってましたし、ライブ情報も同様。
自分がサポートしてたバンドや、SSWとのふたりユニット(=三上寛さんの都内ライブでは前座をやってた時期も)ではハコの予定に自分の名前が載ってて…何だか懐かしいですよ。
軽い気持ちでの検索と違って、映画監督の作品一覧など図書館に行って調べる…必死というか、行動してましたよね。

最近、今頃になって『夜廻り猫』にドハマりしてしまって、Web版で追いつこうと必死になって読んで泣いてます。
明日からしばらく休みなので、京王百貨店新宿店の丸善で行われてる原画展に行ってこようかと…でも作品を思い出して泣いてしまったらアレだしなぁ…でも重郎ちゃんの缶バッヂがほしいなぁ…などと。

今日はホントひさびさに、仕事帰りの午後は画家知人の個展に、夜はSSW友人の弾き語りライブにと表現の生鑑賞でした。
本もそうですが、やっぱり表現を鑑賞できるっていいですね。
Posted by 中林20系 at 2021年02月14日 21:26
中林20系 様

重いハードカバーを持ち歩く度に、電子書籍ならもっと軽くて済むのだろうなと思うのですが、なかなか手が出ません。
まぁ、私はほぼ図書館で借りてタダで読んでますから。そのくらいのデメリットは我慢してます。
あとは、予想するに、私が読みたいような本は、あまり電子書籍化されていないような気がして。
何せ、流行りの本はあまり読みませんから。

ほんとに「ぴあ」にはお世話になりました。
そして、その他の様々な雑誌にも。
こちらからどん欲に取りに行かないと、情報が得られない時代でしたからね。
最近、テレビで恋愛指南めいた番組をよく見かけるのですが、こういったことはみんな雑誌に書いてあったなと懐かしく思いました。
雑誌に載ってたからって、真に受けて実践する人も少なかったとは思いますが。
今の若者はテレビを見ないだろうから、恋愛のHowToはネットで触れるのだろうかと想像するのですが、実際はどうなのでしょうね。

「ぴあ」のライブ情報って、バンドメンバーの名前までガッツリ載ってましたよね。
知り合いの名前が載ってたりすることもままあって、「載ってる、載ってる」って。
今なら、SNSで載せてるんでしょうが。
トキメキが違うというかなんというか。

『夜廻り猫』はそこここで見かけても、読んだことはなかったので、WEB版を少し読んでみました。
ほんわかあったかい世界ですね。

私はグッズとかにあまり興味がない方なんですが、今は『とーとつにエジプト神』のメジェド様のグッズが欲しくて堪らないです。

もう1年以上、美術展とか行ってないし、さすがにどこかに行きたいですねぇ。
逆に、生の芸術に触れることのありがたみを感じるこの頃です。
Posted by nbm at 2021年02月15日 00:59
お互いに・・・怪談好きですね

( ̄▽ ̄)

怪談でも、文学でも
読みやすいとか
読んでスッと脳に入る文章とか
それらの違いで好みも分かれますが
怪談日和は興味ありあり

感想を深読み(ネタバレ)するので
実物を読んでみますね!
Posted by プリュム at 2021年02月26日 10:52
プリュム 様

私は近年、以前にも増して怪談を読んでいます。
どうも、ストレスが溜まるとホラーに走る傾向にあるようで(笑)

自分で言うのもナンですが、たくさん怪談を読んできましたが、『怪談日和』は他と明らかに一味違います。
怪談がお好きなプリュムさんには、特にオススメしたいです。
楽しんでくださいね!
Posted by nbm at 2021年02月28日 01:06
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